ディモルフォセカの涙
「さすがだね、ユウ」----マネージャーの声に、無事に撮影を終えた私はホッと安堵した。

 テレビで放送されるのはもう少し後の事だけれど、彼方はそれを見てくれるだろうか?

 連絡して知らせれば、彼方は必ず見てくれる……ううん、ダメだ……

「カナタには連絡しない!」----どんなに彼方の存在が、私のことを助けてくれても。

 わたしの中、彼方の存在はまだまだ大きくて、私はその想いを掻き消すように深い息を吐いた。

 私の全てを締め付けるこの窮屈なドレスを脱いでも、私の体はまだ不自由さを感じる。
 
 
 わたしは知らない。

 この夜に、実花さんが彼方と一緒に時を過ごしていることを。

 ほんの少しもそんな考えは浮かばない。

 この先もずっと、私の知らないところで二人は会うの?

 わたしは知らない、何も知らない。


『今夜は遅くなりそうなので自宅に帰ります』----今年最後の仕事を終えた私は、実花さんにそうメッセージしたとおりに、スタッフに車で送迎してもらい自分の家に帰っていた。
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