ディモルフォセカの涙
慌てふためく私の態度に、ギターの彼はとても困った顔をする。
「何、君、俺達のファンなの?
あちゃー、ファンの前でする話じゃなかったね
ごめんね」
「あっ謝らないでくださいよ
そうじゃなくて、カナタさんは絶対に
ディモルフォセカに必要ですよね?」
「ああ、必要だねぇ」
「ですよね……」
「だけど、君にも俺にもカナタの望む人生の
邪魔はできない」
「そうですけど……
ひどくショックです、私」
「だよね、俺達もさびしいよ
だけど、大好きなヤツの
邪魔者にはなりたくないじゃん
ねっ、応援してやろうよ」
「……はい」
カナタさんは、バンドを脱退してステージを降りる。それはもう、変えようのない事実。
私のスマホに、カナタさんの音楽スケジュールを追加することも今後は無くなる。
私とカナタさんとの接点は、もうどこにもない。
溢れる涙を手の甲で拭う私の肩を、「元気出して」とポンポンと叩いてくれる彼の優しさに涙がまた溢れ出る。
「章、俺のこと好きだったの?」
「当たり前じゃん
おまえほどステージの似合う
奴はいない
いつでも戻っておいで」
「まだ、居るけどね」
「あっ、そうなの?
だってさ彼女、良かったじゃん」