ディモルフォセカの涙
「隣人だなんて嘘つくなよ」
「近隣、だったかも?」
「どっちでもいい
近所なのは、職場がって話だろ?
家はここに無いだの、教室で眠るだの
ワーワー言い出した挙句に泣き出す
本当、迷惑な話だ」
「うそ、ごめんなさい
私まったく覚えてない
それで、私をここに?」
「ああ、ほかにどうしようもない」
騒動の最中、支払いを済ませたタクシーはこの場を去り、終電に乗れるかも不明。
彼女が言うように職場に置いて帰ってくれば、いつもの静かな朝を迎えられただろう。
「ありがとう、私、うれしいです
カナタさんの家に
泊めてもらえただなんて夢のよう……」
「あのさ、聞くけど
おまえ、俺のファンなの?」
「えっ!違う違う」
『私、好きなのよ、ユウさんのことが』『邪魔しないでね」----当初から彼女は、ユウのことを好きだと言っていた。
俺達のバンドのことなど興味がなく、知らない風だった。
それに、どちらかと言えば、挑発的な態度で今までは俺に接する彼女。
俺達のファンだとはとても思えない。
『ひどくショックです、私』----だけど、昨夜の涙は嘘ではなく、俺がディモルフォセカに必要だと言い、脱退すること素直にショックを受けている様子だった。