ディモルフォセカの涙
ユウがライブを見に来なくなった後も、彼女だけは頻繁に通っている。
それは、ファンだからと言った方が正当……本当に、何を考えているのかまったく掴めない。
「でも、ディモルフォセカは好きです
音楽にはとても興味があるわ」
俺達の音楽に興味があるだけ……
彼女は使ったベッドをきれいに片すと、テーブルに置かれた自分の鞄の中をゴソゴソと探り、小さな手鏡を出しては寝起きの顔と、髪をチェックしている。
「洗ってくれば」
「いいんですか、ありがとう
あの、タオル使っても」
「ちょっと待って」
俺は新しいタオルを棚から出してあげながら、「何してるんだろう」と考える。
どうしてこんなことになっているのか?
『……なぜユウを守らない?』----そうだ、彼女と昨日できなかった話をしなくては。
顔を洗って戻って来た彼女に俺はもう一度同じことを問うた。すると彼女は言う。
「策略だ、そう言われてもしかたない
だけど、クリスマス会は急に決まったことだし
そもそもは、私と生徒達だけの会で
これまでのレッスンの成果を披露する場
そこに急遽、参加したのはユウさんの意思で……」