ディモルフォセカの涙
 彼女は、進行役の人に私が極度のあがり症だと話を通してあるから心配しなくても大丈夫だという。


「だから彼女に任せて、ねっ」

「はい」


 そして14時----私は、ステージに立つ。

 5階まで吹き抜けのショッピングモール、天井高くまで伸びる太い列柱がすばらしく、教会・ガーデンを思わせる素敵な空間に私はとても清々しい気持ちになる。

 緊張を和らげるために深呼吸をひとつ。


「皆様、お待たせ致しました、それでは登場して頂きましょう

 中学生の頃から幾つもの楽曲創作に取り掛かりその後は路上パフォーマンスにカフェ等での弾き語りの日々、その中で自身を高め、デビューした後も精力的に活動を行い昨年は自身初である……公演も大成功なされました

 シンガーソングライター、岸口 ユウさんです

 皆さま、どうぞ盛大な拍手でお迎えください」


 たくさんの観客、ファンの人達の声援。

 私の名を呼ぶ声、私の頭の中、もうすでに真っ白だ----腰かけた椅子の傍には、立てかけられた私のギター。


「初めまして、ユウさん」

「はじめまして……
 キシ、グチユウです
 
 こんにちは……」

「……

 それでは、早速ではございますが
 ファンの皆様もお聞きしたいと思われます
 明日発売の新譜……のお話はもちろんのこと
 ユウさん自身のお話も時間が許す限りたくさん
 伺いたいと思います」
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