ディモルフォセカの涙
 やっと少し動き出したその時、解けた靴紐を誰かに踏まれた私は後方からグイグイ押し寄せる人の波とこれ以上は動けない足のせいで立ち往生していた。----どうしよう、どうすれば?


「靴、脱いじゃえばいいよ、とりあえず」

「えっ、あっそうだね、そうしよう」


----困っていた私に話しかけてくれたのは、上品な雰囲気の目鼻立ちくっきりの美人さんだった。

迷惑かもしれない、だけど立ち往生するよりは……。私はその場に片方だけ靴を残して歩く。そんな私の腕に絡ませる腕、双方、ノースリーブ。ヒヤッと冷たいその感触にびくっとする私に彼女はニッコリと微笑んで言った。


「後で探すの手伝ってあげる」

「えっ、いいよ別に……」

「いいからいいから
 
 ほらっ、行こう
  
 足、踏まれないように気を付けて」

「うん、ありがとう

 あの、嫌じゃない?

 わたしの腕、汗ばんでるから」


 人ごみの中、汗ばんだ素肌と素肌がたった今もぴったりと触れ合っている。


「全然

 あっ、もしかして嫌だった?」


 私の腕から離れようとする彼女に、私は即答する。


「ううん、平気」

「そう、よかった

 ……あっ、私、ミカ

 山河 実花 (サンガ ミカ)

 よろしく」

「わたしは……」
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