ディモルフォセカの涙
 真っ黒な微糖の珈琲をグラスに注ぐと一口飲んだ彼方、苦みが強かったのかグラスをテーブルに置くと立ち上がる。そして、冷蔵庫から牛乳を取り出してそのグラスに注ぐ。

 白い牛乳が黒い珈琲に混ざってゆく様を、黙ったまま見つめている彼方----


「カナタ?」

「そうだな、疲れてないとは言えない

 だけどこの時間は楽しい」

「楽しい

 ほんと、本当にたのしい?」

「ああ、だからユウは居たいだけ
 ここに居ればいい」

「よかった」


 彼方が私と居て楽しいと思ってくれているだなんて、とっても嬉しくて幸せな気分。

 彼方の言葉ひとつで私の気持ちは、天まで上昇し、地の果てまで下降する。

 にんまり微笑む私に彼方は言う。


「何、どうしたの?
 今日はえらく、しおらしいね

 いつもズカズカと人んちに
 上がり込んで長々と入り浸っては
 晩飯まで食ってたくせに」

「それ、いつの話よ
 
 あれは、ギターの練習してたからで 
 それにキヌちゃんが私の分も
 ご飯作ってくれてたから……」

「ギター

 貰ってくんない?」


 急に真剣な面持ちになる彼方に、返す言葉が詰まる私。

 私の気分はまた、落ちてゆくの……


「何、言うの、急に

 ……

 カナタ、本気なの?」

「ああ、本気も本気

 いつか話そうと思ってた

 いい機会だ」
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