ディモルフォセカの涙

「ユウさん、ほらっ乗って」

「あっ、ごめんなさい」


 待たせていたエレベーターに私が乗ると閉まる扉、行き先を知らせるボタンは、4階が光っている。

 4階----ギターケースを背負って帰って行ったマナさん、彼女に譜面を届けた実花さん。


「ミカさん

 もしかして
 音楽教室に通ってるの?」

「ふふっ

 違うけど、違わないかな」

「えっ?」

「こっちよ

 片づけるところだったから
 まだ少し散らかってるけど……」


 片づけるところだった----ということは、実花さんは音楽教室の先生!


「ミカさん、先生なの?」


 首を傾げて見せる、実花さん。


「うーん、どうだろう?

 今だけは、私が主に先生担当かなぁ」

「すごい」

「すごくなんかないよ、ぜんぜん」


 実花さんの職業に驚かされながら、案内されて立つ部屋の前----『オステオスペルマム音楽教室』と書かれた看板表札が掲げられた扉を開くと、そこには小中学校の音楽室ほどのスペースが広がる。

 疎らに置かれた椅子にホワイトボード、その手作り感とは反対に、とても立派なピアノが置かれている。ギターもベースも私が見る限りとても高価な物だ。

 用紙が貼られたホワイトボートを慌てて裏返す、実花さん。


「恥ずかしいわ、お遊びみたいでしょう
 
 本物のアーティストさんから見れば
 こんな……」
< 57 / 204 >

この作品をシェア

pagetop