ディモルフォセカの涙

「片づけだなんて、そんな大袈裟
 なものじゃないのよ
 ササッと片してお終いなの

 生徒さんも今は四人
 今日なんてマナちゃんしか
 参加できなくて

 しかも用事があるからって
 早々とレッスンは終了」

「そうだったんですか」


 教室の片づけを少しずつ進めていきながら、実花さんは話を続けた。


「生徒がたったの四人

 どうやってこの教室の
 生計を立てているんだろう
 
 今、そう思ったでしょう
 ユウさん?」

「えっ、ううん、まさか」

「なんて冗談

 この教室、実は私の父が
 経営しているの
 
 本当の先生は、父なのよ」


 実花さんの話では、実業家の彼女の父は事業の傍ら、昔のバンド仲間と音楽活動を行ない、自分達の資産でリサイタルなどを積極的に開催し、ある一定の人達に人気を博するまでになったらしい。

 しかし、バンド仲間は皆、それぞれにやりがいのある仕事を持つ成功者、音楽は趣味程度でいいと、一人二人とバンドを抜けて活動ができなくなり、敢え無く終了。


「もともとは過去に挫折したもの
 
 それをわざわざ引っ張り出して来て
 やってみたら難なくクリアー

 活動を終えた後は、その延長で
 この音楽教室まで開いて
 こちらも、またまたうまくいって

 今度は教えるのが億劫だと
 すごい有名な先生を雇う始末」


 話している実花さんの表情は怒り心頭に発し、その口調もだんだんと強くなる。
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