ディモルフォセカの涙
 花の名前をつける人、多いのかな?----それにしても、どの花も難しい名前。


「とても

 にてる

 (は)なが、あるの……」


 話している途中なのにお酒に酔っているのか眠ってしまいそうになる、実花さん。今にもその手から滑り落ちそうなグラスを取ると、縁についた口紅が私の手に少しだけついた。私は、グラスをテーブルに置く。


「ミカさん、酔ってる?」


 実花さんの顔を覗き込むと、彼女は目を閉じている。グラスの縁に何度と触れた唇、薄っすらと残る口紅。

 私は、ふと思い出した。

 実花さんの私への告白……ついさっき私のことを好きだと言った、彼女のその唇もこの部屋と同じピンク、桃色。

 目を閉じたまま微かな声で話す、実花さん。


「……

 大好きなの
 
 その花が

 ……

 ねえ、ユウ

 離れられそう?」


 開いた実花さんの目。----その瞳に映るのは、私……


「はなれる?」

「そう

 カナタから離れて

 忘れてよ」


『そんなに好きだったの?』

『もう、会えないじゃんか』

『バイバイ、カナタ』


 彼方に会いたい----けれど、会えない。

 貴女と見つめ合うこの時に、私の頬を伝う涙----その涙に触れる、細い指先。
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