ディモルフォセカの涙
 ミュージシャンでもあった彼の装いは、普通の実業家の人達が好むようなパリッとしたスーツではなく、ノーネクタイにお洒落なデザインのジャケットを羽織っていた。----この服、彼方が好きそうなデザイン。


「カナタに似合いそう」

「カナタ君?

 ああ、服?

 そうね、彼ならもっと素敵に
 着こなしそう

 でも、もう少し若いデザインの
 方がいいわ」

「そうだね

 これ貰っていい?」


 リーフレットをひとつ貰うことにした私に実花さんは言う。


「うん、別にいいけど
 それ児童用だよ

 それに必要なくない?」

「かわいいから
 ピンク色も、このウサギさんたちも」


 ペールピンクの用紙に、児童に向けて書かれた可愛い文字と白ウサギと黒ウサギのオリジナルな絵。手作り絵本の一ページを見ているように心が和む。

 それはとてもノスタルジック、遠い昔に見たことがあるような……


「ユウって、かわいいの好き系?
 
 すごくクールに見えるのに

 ほらっ、そのブルーがかった黒髪も」

「これでも一応、女の子なので」

「ふふっ、そっか

 ……

 ところで、ユウ

 あれから、カナタ君とは会ってる?」


 私と視線を合わせることなく、それとなく質問をする実花さん。----その問いかけに何故かドキッとしてしまう、私。


「ううん、一度も会ってないよ」
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