ディモルフォセカの涙
「もう、ひと月以上は経つよね
彼のバンドのライブにも
行ってないの?」
「……」
『誰に止められても私は見に行くよ!!師匠のライブは必ず!』----そう言ったのに、私はあれから一度も彼方がステージに立つ姿を見ていない。もちろん、ライブハウスにも顔を出していない。
「もしかして、私のせい
だったりする?
私が……」
『カナタから離れて、忘れてよ』----あの時の、実花さんの言葉は関係ない!
「違うよ!
確かに、つらい恋からしばらく離れて
みて、自分を見つめ直してみようとは
思ってる
だけど、それ以上に新しいアルバム
の発売や、ツアーに向けての
あれこれと忙しくて……」
それに事務所からも、ライブハウスへの出入りはきつく注意されていることを、実花さんに説明した。
「そうなんだ
そりゃそうかもね
ユウは有名人だもの、危ないよね
だったら、イベントも危ないね
ちょっとした商店街の催しだとは
言え、やっぱり危ないよ
仕事も忙しいみたいだし、ユウ
無理しなくていいよ
そうだ、教室のセッションの日に
おいでよ」
「うん、よく考えてみる」
私がイベントを観覧すると迷惑になるかもしれない。----手元を見つめながら考え事をする私の視線に映る写真は実花さん、彼女の経歴も掲載されていて音楽学校の文字。