ディモルフォセカの涙
 音大に、音楽専門学校……


「ミカ、音大生だったの?」

「ああ、入学してすぐ辞めたの
 
 その後は、専門学校に通って
 今に至るけど」

「大学から専門学校に……」

 
 『わざわざ』という言葉が続きそうな私の質問に、実花さんは少し口元を緩めてみせた。


「何してるのって、そう思った?
 
 この教室を手伝うことにしたら
 やっぱり音楽の専門学校ぐらいは
 出ている方がいいと

 そう、父に言われて」

「そうなんだ

 ひとつ、聞いていい

 音大の時、専攻は何だったの?」

「ああ、ピアノ」

「すごい」


 憧れの眼差しで見つめる私に、実花さんは言う。


「別に、すごくなんかないよ
 
 物心ついた頃には当たり前のように
 毎日、ピアノのレッスンがあったって
 だけの話」


 あれだけ毎日練習をすれば上達すると、話を続けた。


「それに大学はすぐ辞めちゃったし
 
 通う意味をなくして……」


 実花さんと同じ理由で、私は音大を辞めた人を知っている。

 貴方が通う学校に、私も入りたいと憧れていた、懐かしい日々----


「カナタも、そう言って辞めた」

「……

 通ってたんだ、彼」

「うん、確かポピュラー音楽専攻
 だったかな?

 訳あって休学してたんだけど
 ……」
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