ディモルフォセカの涙

「後悔しても、もう遅い

 わたし、ユウさんとキスしたわ」


 思いもしなかった彼女の告白に、俺はただ黙り込む。そんな俺の胸に当てる手、かかる体重。  
 そう彼女は背伸びをし、そして、俺に触れる。----柔らかな感触が、俺の口元近くに残る。

 どうして、俺にくちづける……彼女の上唇は赤くなり、キスした証拠はそこに残る。


「そう、こんな風に、何度もね

 私の想いも伝えた

 わたしたち、一緒に暮らすの
 
 だからもう、わたしたちの前に
 現れないで

 邪魔しないでね」


 そう言い残し、窮屈な空間から出た彼女はコツコツとヒールの音を響かせて夜の街に消えた。

 その場所を後にした俺はふと立ち止まり、唇に右手を強く押しつけた。手の甲についた赤い紅色、それは、あの事故の日の血のように見える。

 左手の傷口から流れる血は、止まらない。

 彼女がやることなすこと理解不能、わざわざ俺の前に現れる、俺にくちづける。そして、また会いに来る----さっぱり意味不明。

 一人、来た道をゆっくりと歩いて戻る俺の前に、現れたのは、章。

 出待ちをしているファンに捕まっている他メンバー、何ともご苦労様なことで。
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