ディモルフォセカの涙
「カナタ、おまえ何してる
ところで、ユウちゃんはどこ?
居るんだろ、だからおまえ
サッサとステージ降りて
あっ、荷物忘れてたろ
取りに戻って来たのか?
なあ、ユウちゃん、どこ
俺に黙って帰っちゃったの?」
「ユウじゃない
ユウは、来ない」
『バイバイ、カナタ』----ユウはもう、俺には会いに来ない。
『わたし、好きなの』----土壇場で突き放した俺の顔なんて、二度と見たくないだろう。
二度と、君は俺を見たくない!
『わたしは、ユウだよ、カナタくん、どうしたの?』----ユウに出会えて流した、幸せな涙。
今、俺の頬を伝い、ポタッと地面に落ちたもの----それは、不幸せの涙なの?
「どうした、カナタ
泣いてんじゃん」
「バカ、泣いてないよ
汗だよ、汗」
「わかったわかった
ユウちゃん、仕事忙しいんだろ
しかたないか、有名人だもんな
俺達も早く追いつけ追い越せで
がんばって有名に……」
「章
俺やめるわ、バンド
悪い」
俺の肩にガシッと腕を回す、章。彼は、勝手なことを言う俺を決して責めはしない。