ディモルフォセカの涙

「そっか、おまえがそう言うなら
 しかたない

 おまえには俺
 だいぶんとムリ言ったし
 
 まあ、職、見つけるまでは
 いいじゃん

 メンバーには、それから言おうぜ」

「ありがとう」


『誰に止められても私は見に行くよ!!師匠のライブは必ず!』、『もうちょっと足掻いてみるわ』----そろそろ、潮時だろう。


「ところで、カナタちゃん
 何、俺の上着、着てんの?」

「ああ、君のだったの?

 落ちてたから」

「落ちてたら勝手に使っていいのか!

 寒いんですけどっ」


 そう言うと章は、俺が被るフードの端をグイッと下向きに引っ張るのだった。

 すると俺の体、頭は自然と前へとお辞儀したようにしな垂れる。そこで、章はそのまま俺の頭を押さえ続けた。


「うわっ、やめろ

 やめろって」

「やめねえよ

 おーい、おまえら、捕まえたぞ

 飲み行くぞ」


 俺達もまた、彼女と同じく、夜の街に消えて行く。

----遠くに、俺達を見つめる視線がある。

 彼女は自分の唇に指先で触れ、深呼吸をひとつ。

『ただじゃなくても目立つのに、……するのよ、まったく』

----どきどきするのよ、まったく!

 そう、離れた今でも、ドキドキは止まない。
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