ディモルフォセカの涙
『オステオスペルマム音楽教室』の、看板表札が掲げられた扉の前に立つ私に聞こえる音がある。その音は、微かに開いた扉の隙間から漏れ聞こえ、私をこの場所に止めさせた。

 とても素晴らしい歌声にアコースティックギターの音色。初めて聞くその曲は、私の胸を打ち衝撃が走る。----ギターの弾き語りをしているのは、実花さん。彼女は、ものすごいアーティストだ。

 私が憧れてやまない彼方のギターの音色にとてもよく似ていて、私の胸はざわつく。音が止んでも私はこの場所から動く事ができない。

 聞こえた「ブラボー」と叫ぶ低い声と拍手の音で、私の意識は戻った。扉の外、背伸びをするとガラス窓から中が見えた。そこには、私の知らない男性の姿。


「お嬢、君は相変わらず
 憎たらしいぐらい完璧だな」

「あら、そうですか、王先生」

「なぜ、君はここから出て行かない?
 それだけの技術があれば……」

「わたしだって出て行きたいわ
 こんなところ」

「いやっ、君は自ら
 ここに居ることを選んでいる

 そんなに彼に愛されたいのか?
 
 ……

 大輔さんにだよ」

「パパにですって!バカ言わないで
 
 くだらない話は止めて、それよりも……」
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