ディモルフォセカの涙
「はい、こちらこそ」
話を終えて、帰りかけた太田さんは扉の前で立ち止まる。
「あっ、あと、彼女がお嬢って
仲間に呼ばれているのは
決してお嬢様だからという訳じゃ
ないよ
相当の我儘娘だからさ
君には、手が焼けると思うよ
それじゃあ」
自分勝手に、言いたいことだけを言って帰ってしまった男性。『小さい頃』----実花さんのことをいろいろと知っているような口ぶりだった。
教室を出て、今日はこれから実花さんのショッピングに付き合うことになった為、私達は駅のホームで電車が来るのを待っていた。
「彼、何か言ってなかった?
私がわがまま娘だとか
……
やっぱり、そうね
ユウ、彼があなたに言ったこと
信じない方がいいよ
彼、私のこと大嫌いだから」
実花さんの話では、あの音楽教室を任されるのは自分だと思っていたらしく、有名な講師でもあった彼は実花さんが事実上、代表代理を務めていることが許せなくて、教室を辞め、生徒のほとんどを自分が今務めている教室に連れて行ってしまったらしい。
「あの教室を自分のものにしたいのよ
だから、私を追い出そうとしてる」
『君はここから出て行かない?それだけの技術があれば』----そういうことだったんだ。だけど、彼が言うように実花さんの才能はすばらしい。