ディモルフォセカの涙

「ミカは、アーティストの道には
 進まないの?」

「進みたいよ!
 進みたいに決まってる

 みんなに自分の音楽を届けて
 聞いてほしいよ、私だって
 
 だから、正直に言うと
 ユウが羨ましい」

「わたしが⁉」

「そう、だってユウは
 わたしの夢を、現実にしてる」


 私を見つめる実花さんの瞳は、とても寂しく、愁いを帯びる。


「自分の音楽を世間の人に届け
 それが認められ、たくさんの人が
 あなたの音楽を愛し、ユウ自身を愛し
 応援してくれている、それは本当に
 すごいことだと思う
 
 自分が創りだしたものが
 受け入れられる、そのこと自体が奇跡

 奇跡……」


 実花さんの話の途中に、「電車がホームに入る」というアナウンスが駅内に流れた。でも実花さんはそのまま途切れることなく話し続けた。


「……ばっかりあり得ない、私の」
 

 電車の音にかき消されて、私には届かない実花さんの声。ただ、私のことを見つめる彼女の瞳だけが、無いものを強請る子供のように私に訴えかけてくる。それが、欲しいと……。

 電車は停車位置に止まり、音は静まる。


「ごめん、聞こえなかった」

「煌びやかな世界に生きてていいな
 って話

 わたしなんて、教室の洞窟の中で
 藻掻いている」

「洞窟だなんて」
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