【番外編】ないじつコンブリオ
「そりゃ、一番良いのは……」
そのあと、栗山くんは勿体振りながら、自分をじっと見る。
「『名字じゃない名前』『呼び捨て』もしくは『あだ名』とかかな。あと……」
栗山くんが、指折り数える仕草のままで静止する。
その頬は、アルコールも手伝って、ほんのりと赤く染まっていた。
もちろん自分も、それにつられて顔がじんわりと熱くなる。
焼鳥を手に取ったまま、黙り込んでしまった自分を見て、栗山くんは不安げに尋ねた。
「そういえばさ……華さんって、俺の名前知ってる?」
栗山くんが、そんなことを尋ねてくるものだから、思わず自分は彼を見つめて固まった。
すると、栗山くんが不安げに「あれ、まさか、本当に知らない?」と呟く。
内心で、それくらいは当然知ってる、と自分は胸を張る。
その態度を見せるように、口に出した。
「よしき、くん」
自分がそう言えば、少しはにかんでくれる。
ちゃんと正解することができた、と自分自身も安堵していた。
だけど、それよりもむず痒さのようなものを感じている。
少しムキになって、すんなりと言ったものの、言ったことは自分にとっては、爆弾を投下したようなものだ。
もう、取り返しがつかない。
全身に、どう仕様もないくらい、熱を帯びる。
今言った呼び方で呼び続けるなんて、こんな状態であるのに、これから今後できるわけがない。
照れ隠しの意味も含め、自分は栗山くんに訴える。
「ちょ、ちょっと……待って」
「何?」
「やっぱり、下の名前じゃ呼べない」
「何で?」