【番外編】ないじつコンブリオ



「そりゃ、一番良いのは……」



そのあと、栗山くんは勿体振りながら、自分をじっと見る。



「『名字じゃない名前』『呼び捨て』もしくは『あだ名』とかかな。あと……」



栗山くんが、指折り数える仕草のままで静止する。

その頬は、アルコールも手伝って、ほんのりと赤く染まっていた。

もちろん自分も、それにつられて顔がじんわりと熱くなる。

焼鳥を手に取ったまま、黙り込んでしまった自分を見て、栗山くんは不安げに尋ねた。



「そういえばさ……華さんって、俺の名前知ってる?」



栗山くんが、そんなことを尋ねてくるものだから、思わず自分は彼を見つめて固まった。

すると、栗山くんが不安げに「あれ、まさか、本当に知らない?」と呟く。

内心で、それくらいは当然知ってる、と自分は胸を張る。

その態度を見せるように、口に出した。



「よしき、くん」



自分がそう言えば、少しはにかんでくれる。

ちゃんと正解することができた、と自分自身も安堵していた。

だけど、それよりもむず痒さのようなものを感じている。

少しムキになって、すんなりと言ったものの、言ったことは自分にとっては、爆弾を投下したようなものだ。

もう、取り返しがつかない。

全身に、どう仕様もないくらい、熱を帯びる。

今言った呼び方で呼び続けるなんて、こんな状態であるのに、これから今後できるわけがない。

照れ隠しの意味も含め、自分は栗山くんに訴える。



「ちょ、ちょっと……待って」

「何?」

「やっぱり、下の名前じゃ呼べない」

「何で?」
< 18 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop