【番外編】ないじつコンブリオ
目が、どう見ても本気だ。
『名字じゃない名前』『呼び捨て』もしくは『あだ名』
ふと、頭の中に先程、栗山くんの言っていた条件が頭に浮かんだ。
そうか。
「芳樹くん……よし……よしくん?よし……」
「え?え?なんて?」
「あだ名。『よしくん』『よし』なら、多分、呼べそう」
栗山くんは少し沈黙をつくった後、勢い良く吹き出した。
そして、親指を立てて、頷いてくれた。
「いいね!どっちも気に入った。できるなら『くん』は要らないかな」
「わかった。今から呼ぶ努力をします」
「よろしくお願いします」
呼ぶ努力なんて、内実では口から出任せ。
どれくらいの月日がかかるのか、というのも、かなり怪しいもの。
考えるだけで、体が強張る。
でも、それをいつまでも待てない、とまるで急かすように、栗山くんは言葉を続けた。
「とか言いつつ、俺も『さん付け』じゃ華さんにとっても、フェアじゃないか」
「え」
「ね……華」
顔が火傷をしたように、一度に熱くなる。
ただ名前を呼ばれただけなのに。
ぎこちなく言われたのが、より効力を強めている。
それだけで最早、正常では居られない。