【番外編】ないじつコンブリオ

自分が俯くと、栗山くんの温い大きな手が、自分の手に重なった。

隣の栗山くんを見上げると、生ビールを煽っていた。

そして、ジョッキを机に置いて尚も、正面を向いている。

横から見ていて、それはまるで照れを、表情を隠しているようだった。

それが、妙に寂しく感じてしまった。

何故かしら、避けられている感覚に陥ってしまっている自分を感じた。



「ねぇ…………よ、よし……?」



自分がそう言えば、栗山くんは目を少し見開いて、ゆっくりとこちらを向いてくれた。

もう、大丈夫。

先程までの孤独や寂しさは、溶けるように消え失せた。

栗山くんは相変わらず、顔を赤く染めて、驚いている様子だった。



「え、な、何」

「……ごめん。何でもない……ただ、呼ぶ練習をしてみただけ」



照れ隠しにそう言うと、栗山くんはまた優しく微笑む。



「本当に?何にもない?」



栗山くんに問われて、頷こうとしたのを止めた。

隠し事したって、何にも良いことなんてない。

思ったことは、言葉にして外に出さないと伝わらないから。

気持ちが一方通行だなんて、もう相手に思わせたくないから。

今からでも。

突然にでも。

素直にならないと。

自分は、首を横に振った。
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