【番外編】ないじつコンブリオ
「……こ、こっち向いてくれないから、寂しくなって…………」
「え……じゃ、ずっと見てていい?」
「ずっ、ずっとはちょっと……」
焼鳥のタレの味や店内の雰囲気とは、とても似ても似つかぬやり取り。
そのことに、お互い気付いてまえば、大笑いしてしまうほどのことであるのに。
どちらも気付かないというのだから、むしろ笑いそうになってしまう。
でも、やっぱり恋愛下手な自分にとっては、それどころではない。
ずっと心臓は、ドキドキと高鳴っている。
しかし、だからと言って、体が強張っていく様子はない。
それどころか胸の辺りが、ムズムズと疼いている。
だからだ。
だから、この可笑しな状況に、気付けないで居られるんだ。
「栗山く……」
「違うでしょ」
可笑しな場所で、自分は何か可笑しなこと口走ろうとしたのを、間に挟んで止めてくれた。
自分は、今、何を言おうとしたんだろう。
自分が別件で惑っていても、お構い無しに、栗山くんは言う。
「もう、これからは……栗山じゃないんでしょ?」
そんなことを言ってくる。
やっぱりこの人は、自分の遥か上に居る人だ。
微かな笑顔で、これだけ人を魅了してしまうというのだから、感心してしまう。