【番外編】ないじつコンブリオ
気づけば、かなり近距離にウインナーがある。

それまで気づきもしない自分も、どうかと思ったが。



「食わんの?ほら、ほら」



しつこく続ける水川に、ますます嫌気が指す。

自分はややのけ反り、水川を睨んだ。

自分の唇にあてていたウインナーを、水川は一口で頬張る。

そして、周りの奴らが大笑いする。

こいつが前の席になってから、悔しいことに、こんなことまで日常の一部となりかけていた。

気持ち悪い、悔しい、気持ち悪い。

そういった感情で居れば、お母さんの美味しいはずのご飯も、喉を通らなくなっていった。

お昼のお弁当の時間は、苦痛でしかなかった。






毎日のようにやってくる、ある日のお弁当の時間のことだった。

今日も水川グループ等に耐えながら、一口一口を噛み締めていた。

白いご飯を、口に運ぼうとした時だった。

水川が、唐突に口を開く。



「なんかさ、咲宮 華の食べ方って…エロいよな」



背筋をゾッと、何かが這っている様な感触がした。

あまりにも気分が悪く、顔が上げられなかった。

どうせ、また卑しい笑みを浮かべていることだろう。

周りからは、きっとその証拠になるであろう、下卑た笑い声たちがよく聞こえる。

未だ、顔が上げられない。

吐き気すらも催す。

水川が発した言葉の意味を、未だ詳しくは知らない。

でも、あいつがあんな言い方をしたんだから。

よっぽど自分も普通ではない、もしかしたら、何か汚らわしい食べ方をしていたのだろうか。

そう思えば思うほど、恥ずかしくなる。

顔が焼けるように、熱い。

たったこんなことだけで、この日を境にお弁当の時間は、白いご飯を2、3口食べることで、精一杯になっていた。
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