【番外編】ないじつコンブリオ
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翌朝も、いつもの朝のように、お母さんは遅刻寸前の自分を急かす。

お母さんには、行きたくないだなんて、とても言えない。

いつも常に、笑顔で家族を送り出そうとしてくれるから。

引き返せなくなる。

以前に一度だけ、本当に一度だけ、自分はお母さんに、強くあたってしまったことがあった。

その時、お母さんはたった一言、大きな声で自分を叱った。

かと思えば、そのあと直ぐに微笑んだ。



「学校に、そんなに嫌がる程の何があるんかは知らんけど。嫌なんやったら尚更。そんなんに負けてやったら、あかんわ」



普段、温厚なお母さんも、その時ばかりは微笑みでさえ、凛としていた。

その日の朝は、涙を堪えながら、必死で自転車を漕いだのを、よく、よく覚えている。
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