セカンドラブは魔法の味
屋上のドアが開いて、車いすに乗った涼子と車いすを押している茜がやって来た。
「あ! 先生」
涼子は心優に気付いて、ニコッと笑って手を振った。
「ゲッ、なんで? 」
小さな声で呟く心優。
「おばあちゃん、あの先生が担当なの。桜本心優先生だよ」
「そうでしたか。初めまして、涼子の祖母です」
「・・・担当の桜本です」
ちょっと俯いて、心優は頭を下げた。
「ねぇおばあちゃん。言ったとおり、とっても綺麗な先生でしょう? 名前の通り、とても優しいんだよ」
茜は心優を見た。
お世辞でも綺麗とは言えない心優。
だが、なんとなく惹かれる感じがした。
「先生、お母さんとも会った事あるよね。2回くらいかな? 」
「え? そうなの? 」
「うん。お母さん、とっても喜んでいるもん、先生と会えて」
心優は何も答えなかった。
何も答えない心優が、なんだか辛そうな目をしているのを茜は見た。
「先生。ありがとね、お母さんの事。助けようとしてくれて」
そう言われると、心優はフイッと顔を背けた。
「もしかして、春子さんが事故の時。担当してくれた先生なんですか? 」
茜が尋ねると、心優はこくりと頷いた。
「そうでしたか。春子さん、酷い事故だったのに、亡くなった時。とても穏やかに笑っていたって聞いています」
ギュッと拳を握り締めて、心優は目を伏せた。
「・・・すみません。先を急ぎますので、失礼します・・・」
ぼそっとした声で言うと、心優はそのまま去って行った。
「なんだか、ちょっと冷たい感じの先生ね」
「え? そんなことないよ。心優先生は、とっても優し人だよ。優しいから、すぐに自分を責めちゃうの。きっとね、お母さんの事を助けてあげられなかったって、ずっと責めているんだよ。心優先生の中には、お母さんがいるもん。だから、よけいに自分が助けてあげられなかったって思い込んでいるの」
「そうなの? 」
「お母さんが教えてくれたんだよ、心優先生を助けてあげてねって、言っていたもん」
「そう・・・」
涼子は空を見上げて、笑っている。