セカンドラブは魔法の味
午前の診察が終わり、一息ついて屋上で休憩している心優。
いつもはタバコを吸っているが、この頃はタバコを吸わなくなった。
梅雨の晴れ間の青空を眺めている心優。
カチャッと、屋上の扉が開いた。
「なんだ、ここにいたのか」
秀樹がやって来た。
心優は軽く頭を下げて策の向こうに見える景色に目をやった。
「退職するんだってな」
「はい」
心優の隣に来て、秀樹は顔を覗き込んだ。
「お前、結婚でもするのか? 」
図星を指された心優だが、平然を装った。
「そっか。お前が随分綺麗になったのは、それだったのか」
何も答えないのに、秀樹は勝手に納得していた。
「ま、幸せになれよ。俺には、お前を幸せにしてやることできなかったが。今でも、お前を好きな気持ちは変わらない。お前は、火傷の跡をずっと気にしてたが。それでも、結構モテてたんだぜ」
はぁ? と、心優は秀樹を見た。
「気づいていなかったのか? お前は人を寄せ付けないようにして、自分を護っていたんだろうな。だが、みんな本当はお前の事護ってやりたくて遠くで見ていたんだぞ。研修医時代から、お前注目されてたし。噂話しには、お前の話題が必ず出てきていたが。あれは、お前に好きな人が居るのかどうか探りたいから話題にされていただけなんだぜ。ずっと1人で、本当によく頑張って来たって俺は思うよ。俺だったら、お前みたいに頑張れなかったかもしれない。・・・本当に、よく頑張ったな」
秀樹は優しく微笑みかけてくれた。
その微笑みが、なんだか心優にはとても優しく感じて目が潤んだ。
「幸せになれよ。今まで辛かった分。いや、それ以上に人生楽しめよ」
潤んだ目を見せたくなく、心優はそっと顔を背けた。
「ん? なんだ? 泣いているのか? 」
「・・・違います・・・」
「お前って、変わらないよな。そうやって、突き放す時はいつも。隠れて泣いていた事、俺は知っていたよ」
「泣いてないです・・・」
「嘘つけ! 声が上ずっているぞ」
ちょっと意地悪そうに秀樹が言うと、心優は背を向けた。
「お前は人一倍優しい。だから、傷つきやすいんだな。俺もずっと、後悔していたから」
背を向けたまま、心優は何も答えなかった。
だが何となく、秀樹は心優の気持ちが分かったようだ。