セカンドラブは魔法の味
それからしばらくして、心優は退職する前日に入籍を済ませた。
心優はまだ病院では桜本のままで結婚の事は誰にも話していない。
だが退職する日はもう京坂心優になっていた。
心優の退職は多くの人達が名残惜しんでいた。
沢山の花束が贈られて、色紙にも沢山のお別れの言葉が書かれていた。
残りの荷物を持って心優が病院から出てくると、秀樹が待っていた。
「すげぇ荷物だな。大丈夫か? 」
「あ、大丈夫です」
「なぁ、最後に頼みがあるんだが」
「なんですか? 」
秀樹はじっと心優を見つめた。
「そのマスク。最後に取ってくれないか? 」
「どうしてですか? 」
「お前に酷い事言ったから、この先もずっと忘れたくないんだ。酷いハンデを背負っても、懸命に医師として勤めていたお前の顔をさっ」
心優はためらったが、秀樹の少し辛そうな顔を見ると断ることが出来なかった。
「分かりました。・・・もう、これで忘れて下さい・・・」
心優はそっとマスクを外した。
「え? 」
秀樹は驚いて、暫く茫然となった。
あの酷い火傷の跡がすっかり消えている・・・
その上、想像以上に綺麗になっている心優に言葉を無くした秀樹。
「もう、いいですよ。あの酷い火傷の跡は、消えましたから。何も罪悪感は感じないで下さい。私も、忘れますから」
「どうやって消したんだ? あんなに酷い、火傷の跡を」
心優は小さく笑った。
「どうやって? ・・・人は時として、奇跡を起こすと言われます。・・・なので、奇跡の魔法が起こっただけです」
「奇跡の魔法? 」
「はい・・・」
秀樹は驚くばかりで、信じられないような顔をしていた。
心優はそのまま病院を後にした。