婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
迎えって?そんな疑問を抱きながらマンションのエントランスに出ていくと……。
「社長、おはようございます」
スーツをきっちりと着こなした男性が私たちが出てくるのを待っていた。
さらりとした前髪を斜めに流した清潔感のある黒髪の短髪。
印象的なクールな目元にメタルフレームの眼鏡をかけた、真面目そうな雰囲気を放つ男性。
以前、盗難に遭った婚活パーティーでお会いしたことのある秘書の方だ。
「おはよう。紹介しておく、話していた紀平里桜さんだ」
貴晴さんは早速私のことを紹介してくれる。
それに倣って「紀平里桜です」と頭を下げた。
「彼は和久井。俺の秘書をしてくれてる」
貴晴さんに紹介された和久井さんが、今度は「和久井伸と申します」と丁寧に頭を下げた。
慌ててぺこりと深めにお辞儀をすると、貴晴さんはフッと小さく笑みをこぼす。
「俺の分身みたいなものだから、何かあれば彼にも頼って」
そう言われて和久井さんを見上げると、改めて「よろしくお願いします」と言ってくれた。
「こちらこそ、不束者ですが、どうぞよろしくお願いします!」
精一杯の気持ちを込めて挨拶をすると、和久井さんは面喰ったように私の顔をじっと凝視し、その後「社長……」と貴晴さんに目を向けた。
「ずいぶんユニークな方とご婚約を」