婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


 横から膝の上に置いていた手を不意に掴み取られ、ぴくりと肩を震わせてしまう。

 そろりと貴晴さんに目を向けると、優しい微笑を浮かべて私をじっと見つめていた。

 掴まれた手が、指を絡めて繋がれる。

 運転をしている和久井さんに気付かれないか、思わずルームミラーに映る和久井さんの視線の先を確認していた。

 こちらの様子には気付いていないようで、ミラー越しの視線はフロントガラスの先に向けられている。


「あなただから、里桜だからできた、素晴らしい仕事だったんだね。なかなか、そんな風に即答できる人、いないと思うよ」


 思ってもみなかったことを言われ、嬉しさが込み上げると同時に照れ臭さが湧き起こる。

 素直に喜ぶ言葉も出せず、「いえ、そんなこと」と謙遜するので精一杯だった。


「だから、そんな人材を切ろうとする会社は、悪いけど辞めて正解だよ」


 どうしてそれを?そんな顔をしてしまっただろうか、貴晴さんは「ごめんね、会長から、じいさんから聞いたんだ」と申し訳なさそうに微笑んだ。


「そう、だったんですか……」

「でも、俺としては感謝しなくちゃいけないよね。人のために一生懸命頑張れる優秀な人材を、ヘッドハンティングさせてもらったんだから」

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