婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
「里桜までそんなことを?」
「えっと……そうした方が、貴晴さんにご迷惑もかけないと思いますし。その……私がもしダメダメだったら、貴晴さんに苦情がいったりとかして……」
有り得る可能性を挙げていると、繋いでいた手を突然グイッと引っ張られる。
「あっ」
体勢を崩して横に体が倒れかけると、貴晴さんの腕が私の背中を抱き寄せた。
「俺は何も迷惑になんて思わない。里桜が何か失敗しても、ちゃんとフォローするつもりだし、何も心配することなんてないよ」
「で、でも……」
掛けられている言葉より何より、この状態が耐え難くてまともな返答が出てこない。
ルームミラーの中で和久井さんと目が合ってしまって、慌てて元の位置に戻ろうとした。
しかし、そう簡単に貴晴さんの手は私を解放してくれない。
「社長、ご婚約されてお幸せなのはわかりますが、あまりその幸せオーラを社内で振りまかないようお願いします」
和久井さんから冷静な声で釘を刺されてしまって、逃げるように体勢を立て直す。
貴晴さんは腕からは解放してくれたものの、また私の手をしっかりと繋ぎ直した。