婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
婚前ベッド事情



 十月も間近に迫り、長袖や羽織りが必要な季節になってきた頃――。


「紀平さん、貸し出しの衣装の数、あと五つ追加にするって」

「五、ですね。カタログ持ってきましょうか?」

「うん、お願いできる? 今、手が離せなくて」

「わかりました!」


『ベストパートナージャパン』で働き始めてから、もうすぐ三週間。

 貴晴さんにこの部署で紹介された日は緊張でガチガチだったけど、なんとか毎日仕事をこなしている。

 社長の知り合い、なんて肩書きでやってきた私に、はじめはみんな興味津々で質問を投げかけてきたけれど、当たり障りなく〝ちょっとした知り合い〟と答えているうちに話題も沈静化していった。

 イベント企画部の人たちはみんないい人で、仕事は遠慮なしにしっかりと教えてくれている。

 私の教育係に指名されたのは、入社して七年目だという芳賀(はが)さん。歳は私の三つ上の二十八歳で、テキパキ仕事をこなすとてもできる人だ。

 耳にかけた黒髪の肩上ワンレンボブヘアで、ワイドパンツスタイルのオフィスカジュアルが多い。


「紀平ちゃん、カタログ、そっちじゃなくてこっちね」

「あっ、すみません」

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