婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
資料やカタログが入る棚の前でお目当てのものに手を伸ばしていると、横からそのとなりのカタログが抜き取られた。
「ありがとうございます」と差し出された分厚いそれを受け取る。
芳賀さんと共によく私の世話を焼いてくれる彼は、同じイベント企画部の照井さん。
女子が多い部署の中にいる男性社員だ。
私の二つ上だという二十七歳の照井さんは、入社六年目。芳賀さんの一年後輩だ。
芳賀さんが忙しい時は、私の指導を買って出てくれている。
女性だらけの職場にいても浮かないタイプの人で、男くさい感じがない。
どちらかというと中性的な顔立ちで、全体的に雰囲気がオシャレな人だ。
名前が思い出せないけど、若手俳優に似てる人がいる。
性格的に気さくでよく話しかけてくれるけれど、男性と話すことが苦手な私としては気を使う存在でもある。
「どう、仕事大分慣れてきた?」
「あ、はい……おかげさまで」
にこりと笑って「それは良かった」と言った照井さんは、手元の腕時計に目を落とす。
「もう昼じゃん。紀平ちゃん、今日お昼は? 買ってきてる?」
「いえ、これから買いに……」
「じゃ、ランチでも行こうよ」
「えっ。あ、はい」
照井さんとふたりでランチ!?と内心焦っていると、いいタイミングで芳賀さんが「私も一緒に行くー」と入ってきてくれる。
三人なら大丈夫と、ホッと胸を撫で下ろした。