婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
「紀平さん、覚えがとてもいいわよ。一度教えたら覚えてくれるし、誰かさんとは大違い」
「あっ、それって俺のことですよね?」
「え? 誰も照井だなんて言ってないけど?」
「いやいや、俺入った頃、芳賀さんに毎日怒られてましたからね」
どうやら、照井さんも私同様芳賀さんが入社時の教育係だったらしい。
そう考えると、入社一年で後輩の教育係を任される芳賀さんはやっぱり優秀ということだ。
「紀平ちゃんは、前職はサービス業だって聞いたけど、接客とか?」
「あ、はい。そんなところです」
「へぇ~、で、うちの社長とは前の仕事の時に?」
照井さんがなんの前触れもなく貴晴さんの話題を出してきて、一瞬言葉につまる。
すると、芳賀さんも「あ、それ私も気になってた」と同調した。
「あ……成海社長というよりは、成海社長のおじいさまと顔見知りで」
「会長と?」
「あ、はい。それで、ご縁があってこちらの会社に……」
なんか更に突っ込みたくなるおかしな理由?と言ってみて思ったけれど、ふたりはそれ以上追及することなく「へー、そうなんだ」と話を切り上げてくれた。