婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
今日、この現場に訪れる予定なんて聞いていない。
それなのに、どうして……?
「こういったことは困ります。場合によっては、今後イベントの利用を制限させていただくことになりますが」
極めて冷静に、会社の代表として的確な対応で男性客に詰め寄る。
男性客は何事もなかったうようにその場を立ち去っていった。
「貴晴さん、どうして……」
「時間が取れたから覗きに来てみれば……良かった」
「あの、すみませんでした。私、どう対応したらいいのか――」
弁解する間もなく、貴晴さんは「おいで」と私も背に手を添える。
そのまま会場の入り口に向かっていくと、戻ってくるといっていた芳賀さんと鉢合い、貴晴さんは「芳賀さん」と声をかけた。
「社長、お疲れ様です」
「お疲れ様。紀平さん、少し体調が悪いみたいなんだ。仕事、上がらせても大丈夫だよね?」
「あ、はい、それは構いません。紀平さん、そうなの? 大丈夫?」
なんの相談もなしに貴晴さんがそんな話をしてしまい、「はい、大丈夫です」と話を合わせるしかなくなってしまう。
「ありがとう。じゃあ、あとのことは頼んだよ」
貴晴さんはそう芳賀さんに言うと、私に「荷物取っておいで」と言い、そのままイベント会場をあとにした。