婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
「里桜、良かった、戻ってきた」
「うん、ごめん。じゃあ……今日はここで、かな?」
ふたりの様子を察し「またね」と、ひらり手を振る。
この雰囲気、話がうまいことまとまって、今からどこかに行くことにでもなったのだろう。
「里桜、今日はありがとうね」
「うん、また連絡する」
去り際、横の彼にもペコリと頭を下げる。
日菜子をお願いしますと心の中で言い、会場を連れ立って離れていく姿を見送った。
良かった……上手くいくといいな。
ふたりの姿が見えなくなると、ひとり会場内に戻っていく。
参加者の大半がすでに会場を後にしていて、店舗のバッシング係が客が去った席の片付けを始めていた。
バッグを取りに、今少し前まで座っていた席へと戻る。
「あれ……?」
しかし、座席に置いておいたはずのバッグが見当たらない。
「え、ここ、だよね……?」
最後に飲んでいたカシスソーダの残りもあるし、確かに座っていたのはこの席だ。
うそ、ちょっと待ってよ……。