婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
幸せな平日デート
十一月に入り、秋はより濃く街を包み込む。
ニットを着る人やストールを巻いている人が多く見受けられ、街路樹は紅葉し葉を落とし始めている。
今日は貴晴さんに有休を取る手配をされていて、平日水曜日だけれど仕事はお休み。
貴晴さんも一緒に仕事を休んで、久しぶりに『長寿苑 憩いの森』にふたり揃って訪れる。
洋司さんに会うのも久しぶりのことだ。
徐々に近づく懐かしい景色。
こうして誰かの運転の助手席に乗せられて訪れる日がくるなんて、ここで働いている頃は考えもしなかった。
「里桜は、引っ越したぶりになるよね?」
ハンドルを握る貴晴さんがちらりと私に目を向けた気配を感じ取る。
「はい、二か月ぶりくらいですね。洋司さんにも久しぶりです」
「顔見せたら喜ぶと思うよ。会長は里桜のこと相当気に入ってるから」
施設へと到着し駐車場へ車を停めると、表の入り口から中へと入って面会の記録を残す。
貴晴さんが慣れた様子で私の名前も書き込んでくれた。
久しぶりに歩く元職場。
ちょうど昼食前の時間で、入所者さんたちは自室にいたり、広間でお友達同士過ごしている時間に当たるため、廊下で誰かにすれ違うことはなかった。