婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
「失礼します」
洋司さんが暮らす特別室のドアをノックし、貴晴さんは中に声をかけながらドアを開く。
部屋の奥からは「貴晴か」と、いつも通りの洋司さんの声が聞こえた。
「こんにちは」
続いて声をかけると、「里桜ちゃんも一緒か!」と弾んだ声が聞こえ、貴晴さんは「ほらね」と私に小声で笑いかけた。
「洋司さん、お久しぶりです!」
「おお、里桜ちゃん、会いたかったよ」
部屋に入ると、洋司さんはソファに腰掛け朝の情報番組を眺めていた。
すぐにテレビの電源を落とし、リラックスしていた姿勢を起こす。
「洋司さん、お変わりないですか?」
「ああ、変わらないよ。相変わらずだ」
「それは良かったです」
「里桜ちゃんはどうだい? 新しい生活には慣れた?」
ここを出て早二ヶ月。
新しい住まいも、新しい仕事にも、やっと少しずつ慣れてきている。
お見合いの場を設けてくれた洋司さんと、いつも優しく見守ってくれる貴晴さんのおかげだ。
「はい、おかげさまで。なんとかやらせてもらっています」