婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
「さっきお会いしたとき、全然わかりませんでした。そんなに、悪いんですか……?」
「うん……またいつ、入院になってもおかしくはないって聞いてる。それもあって、あの施設を出て別の施設に入る予定だったのもひとまず延期になったんだ」
「そう、なんですか……」
「会長は、もう自分も歳だからなんて言ってるけどね……俺は、まだまだ長生きしてほしい」
切に願うような貴晴さんの言葉に、その表情を窺うように目を向ける。
貴晴さんは前を向いたまま再び口を開いた。
「会長は……俺にとっては祖父であり、父のような存在でもあるから。母親が早くに亡くなってから、ずっとそばで見守ってくれていたんだ」
お母様を病気で亡くされていることは、お見合いの席で聞いていた。
幼くしてお母様を亡くされた貴晴さんを、洋司さんが我が子のように寄り添ってきたのだろう。
ふたりの間に流れる空気は、普通の〝祖父と孫〟という関係とはどこか違っているように感じていた。
それはそういうことなのだろう。
「ごめんね。なんか重い話になっちゃって」
「いえ。大切な話をしてくれて、ありがとうございます。私も、洋司さんにはまだまだ長生きしてほしいです」