婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


 テーブルクロスを上げて、テーブルの下に落ちていないか確認する。

 座っていた席には見当たらず、周辺の席を捜索して歩く。

 うそうそうそ……え?私、今お手洗いには持っていってないよね?

 忽然と姿がなくなり、持って出たのではないかとまで疑い始めてしまう。

 でも、間違いなく手ぶらで席を立っている。

 じゃあ、まさか置引き……!?


「お客様、どうなさいましたか?」


 再びクロスを持ち上げ、テーブルの下を覗き込んでいると、背後から男性に声を掛けられた。


「あっ、あの、バッグが見当たらなくて」


 顔を上げて振り返って、目にペイズリー柄のネクタイが飛び込んできた。

 ポケットチーフが挿されたダークグレーのスリーピースを見上げて、そこにあった美しく整った顔に思わずハッと息を呑んだ。

 こちらを見下ろす奥二重の切れ長な目と、高く通った鼻梁。目鼻立ちが華やかで吸い込まれるように見つめてしまう。

 地毛の癖なのかボディパーマなのか、艶のある黒髪は緩やかに流れるようなセットがされていた。

 彼の薄い唇が開くのを、ついぽうっと見つめる。


「一緒に探しましょう。どのようなバッグです?」

「あ、このくらいの、かごバッグなんですけど」


 手振りでバッグのサイズを知らせると、スーツの男性は無言で周辺を片っ端から見ていってくれる。

 その姿をじっと見つめてしまったけれど、すぐにハッとして捜索を再開した。

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