婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
抱きかかえるぬいぐるみに顔を埋め、里桜は繋いでいる手に無言でギュッと力を込めてくる。
どういう意味だろうとじっとその姿を観察していると、微かに「ずるいです」という声が聞こえてきた。
「……そんなこと言うなんて、ずるいですよ」
ぬいぐるみからそっと顔を上げて俺を見上げるその表情は、どこか困っているように目に映る。
それすら愛らしくて、自然と微笑みを返していた。
「可愛い……」
「……可愛くなんかないです」
「可愛いよ?」
否定されて肯定で返すと、里桜はいきなり「貴晴さん!」と声のボリュームを上げる。
急に出た迫力に黙らされてしまった。
「そんな、可愛い可愛いばっかり言ってると、口が疲れちゃいますよ? 今日だって、もう何度も……」
どうやら俺の発言に関する苦情らしい。
それにしても、口が疲れるって……。
だから、そういうのが可愛いんだってば。
「もしそうだとしたら、俺は喜んで疲れるけど。だって、里桜が可愛いんだから仕方ないでしょ」
きっぱりとそう言い返すと、里桜は「もう……」とまたイルカに顔を埋める。
どうしようもなく可愛くて、横からその頬に口付けを落とした。