婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
それは、ハロウィンマッチングパーティーで私に声を掛けてきた、オオカミの仮装をしていた参加者の男性。間違いなくその人だ。
なんとなく顔を逸らし、気付かれないように誤魔化してみる。
だけど、こちらが思っているほど相手は私の存在に気付いていない様子で席へと向かっていった。
そうだよね……あの時は雰囲気で声を掛けただけで、別にもう私のことすら覚えてもないよね。
自意識過剰な人みたいで恥ずかしい……。
でもこの人、この間も思ったけど何か引っかかるんだよな……まぁ、いいか。気のせいだよね。
安堵し、気を取り直して会場の見回りに向かった。
パーティーが始まると、会場内は多くの話し声と笑い声で徐々に賑わいを増してくる。
それはお酒の入り具合と比例しているのだろう。
以前、日菜子に連れられ渋々参加したあのパーティーと、今日のパーティーの形式はほとんど同じだった。
違うことは、今日のパーティーは二人一組参加ではない個人参加というところ。
開始二時間の間は女性の前を男性が時間で動いていき、ラスト一時間は好きな場所に移動して交流を深めていいフリータイムとなっている。
特に問題なくパーティーが進む中、ひとり会場脇に立っていると横目に人が近付いてくるのが映り、ふっと何気なく顔を向けた。