婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


「里桜、このイベントが終わったら、俺に時間をもらえないかな?」

「時間、ですか? はい、それは、ぜんぜん構わないですけど……?」

「今日は会社には戻らず、このまま直帰だよね?」

「はい」

「じゃあ決まり」


 そんな話をしていると、貴晴さんのスマホが着信する。


「少しはずすね」

「あ、はい」


 私の頭にぽんと触れ、「またあとで」と足早に立ち去っていく。

 通話に応じながら会場を出ていく姿を見つめ、取り付けられた約束はなんだろうと気になって落ち着かなかった。

 イベントも後半のフリータイムへと入り、各々が気になるお相手にアプローチをする貴重な時間。


「紀平さん、少し休んできていいよ。お手洗いも行けてないでしょ?」


 変わらず会場の見回りをしていると、遅れて助っ人として来てくれた先輩が声をかけにきてくれた。

 そういえば会場に着いてから出ずっぱりで、トイレに抜ける時間もすっかりなかった。


「ありがとうございます。じゃあ、ちょっとお手洗いに行かせてもらいます」

「うん、いいよ。いってらっしゃい」

< 180 / 223 >

この作品をシェア

pagetop