婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
「里桜、このイベントが終わったら、俺に時間をもらえないかな?」
「時間、ですか? はい、それは、ぜんぜん構わないですけど……?」
「今日は会社には戻らず、このまま直帰だよね?」
「はい」
「じゃあ決まり」
そんな話をしていると、貴晴さんのスマホが着信する。
「少しはずすね」
「あ、はい」
私の頭にぽんと触れ、「またあとで」と足早に立ち去っていく。
通話に応じながら会場を出ていく姿を見つめ、取り付けられた約束はなんだろうと気になって落ち着かなかった。
イベントも後半のフリータイムへと入り、各々が気になるお相手にアプローチをする貴重な時間。
「紀平さん、少し休んできていいよ。お手洗いも行けてないでしょ?」
変わらず会場の見回りをしていると、遅れて助っ人として来てくれた先輩が声をかけにきてくれた。
そういえば会場に着いてから出ずっぱりで、トイレに抜ける時間もすっかりなかった。
「ありがとうございます。じゃあ、ちょっとお手洗いに行かせてもらいます」
「うん、いいよ。いってらっしゃい」