婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


「つけてみてくれる?」


 リングを取り出し、微動だにしない里桜の左手を掴み取る。

 華奢な指先には、わずかに力が入っているように感じた。

 人生で初めて、女性の左手薬指にリングをはめる。

 そっと入れたリングはぴったりで、ホッと胸を撫で下ろした。

 自分の指先を見つめ、里桜は見入るように一点を見つめている。

 何故だかその姿に不安が募りだし、次第に胸の奥がざわざわとうるさく音を立てた。


「気が早いと思うかもしれないけど、牽制のためにつけてほしい」

「牽制……ですか?」

「そう。今日みたいなことがまた起こらないように。俺の心配を少しでも減らすためにつけてほしいんだ」


 思いもしなかったことが言い訳のように口からするすると出てきて、気付いたときには方向修正がきかなかった。

 これでは、ただの虫よけのために用意したように聞こえるかもしれない。

 しかし、里桜の様子を見ていたら、もしかしたら受け取れないと言われてしまうのではないかと、無意識に自分を防衛する気持ちが働いていた。

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