婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
本当は、改めて結婚を申し込む言葉を添えるつもりだった。
いざとなった時、意気地のない自分に腹が立つ。
「ありがとう、ございます……」
里桜は消えそうな声でお礼を口にし、自分の指先に光るリングをまじまじと見つめる。
顔を上げると、その目には何故だか涙を浮かべていた。
「嬉しい、です……」
今にもこぼれ落ちそうな潤んだ瞳を前にして、衝動的に細い肩を引き寄せていた。
言葉で上手く誤魔化しても、この溢れんばかりの気持ちは偽れない。
抱き締めたこの存在がどこまでも愛しくて、必要で大切で――。
もう、里桜なしでは生きられない。
「まだ……俺だけの里桜にはなれない?」
心の声が、口をついて出る。
腕の中から返ってくる言葉を待つ時間が無限のように長く感じて、声を聞く前に「ごめん」と自ら話を終わらせていた。