婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


「この度は、弊社のイベントで、大変ご心配とご迷惑をお掛けしました」

「い、いえ! とんでもないです!」


 社長直々に謝罪されてしまうと、どうしたらいいのか落ち着かない。

 名刺を両手で摘まんだ受け取った姿勢のまま固まっていると、さっき「かしこまりました」と立ち去っていったスーツにメタルフレームの眼鏡をかけた男性が戻ってきて、成海さんに小さな封を手渡した。

 このテキパキとした出来るオーラを放った感じは、成海さんの秘書とか、側近であることは間違いない。


「では、行きましょうか」

「あ、はい」


 成海さんは秘書と思わしき男性に「あとは頼んだ」と一言言い、私の一歩前を歩いて会場をあとにする。

 そのままエレベーターへと乗り込み上階へと向かった。

 警察が事情聴取にくると言っていたけれど、一体どこに行くのかな……?

 前に立つすらりと高い成海さんを見上げて、口に出せない疑問を頭の中で巡らせる。

 警察に被害届を出したって、すぐに荷物が出てくるとは限らない。

 むしろ、このまま見つからない可能性の方が高いと思われる。

 そうなった時、とりあえずどうやって家まで帰ればいいか考えないと……。

 エレベーターを降りた成海さんのあとに続きながら、再び家まで帰る方法をあれこれひとり考えていた。

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