婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


 えっ、貴晴さん……!?


 思わず「あっ」と口が開く。

 しかし次の瞬間、彼のとなりを歩く人の存在に頭が真っ白になった。


 え……だ、れ……?


 淡いピンクチェックのストールを首元に巻き、ベージュカラーのロングコートを着た女性。

 フロントの開いたコートからは黒いワンピースが覗き、そのお腹は前に出るように膨らんでいる。

 お腹に赤ちゃんがいることは誰が見ても一目瞭然の姿だ。

 その女性の手は貴晴さんへと繋がっていて、ふたりの手はしっかりと結ばれている。

 訳が分からなくて、その光景から目が離せない。

 そのうちに、ガラス越しにふたりの姿が近付いてくる。

 他人の空似なんかではない。

 間違いなく、この向こうにいるのは貴晴さん……。

 金縛りにあったように動けず、とうとうガラス越しに貴晴さんと目が合ってしまう。

 心臓が痛いくらい打ち鳴っているのを聞きながら、自分の時間だけ止まっているような不思議な錯覚に陥った。

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