婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
あの時、私と目が合っておきながら、まるで他人を見るようにその場を通り過ぎていった。
だけど、それは他人の空似なんかではなく、間違いなく貴晴さんだった。
私に見られてしまったことで、今晩帰宅したら真相が話されるかもしれない。
あのお腹の大きな女性と、これからの人生を生きていくことを告白されるかもしれない。
いや、もしかしたら、もうここには戻ってこないかもしれない。
もう考えること思い付くことは私にとって真っ黒なものばかりで、息苦しさと共に胸が締め付けられていく。
自室へと向かい、左手に輝くエンゲージリングをそっとはずす。
ケースの中に戻し、それを持ってリビングへと戻った。
いつも包み込むように優しくて、一緒にいるとホッとして温かくて、これからも彼の元で寄り添っていけると信じて疑わなかった。
今日、この間言えなかった気持ちも伝えようと思っていた。
信じたい……だけど、見たものが事実だと私を追い詰める。
ケースに戻したリングをダイニングテーブルへとそっと置き、踵を返して玄関へと向かった。