婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


 成海さんが私を連れて行ったのは、同じタワーの六十六階にあるホテルの一室だった。

 ヨーロピアンテイストの高級感あふれる豪華な客室は、人生で初めて足を踏み入れたスイートと呼ばれるタイプの部屋だろう。

 こんなすごい場所、自分の人生において入ることなんて想像もしたことない。

 敷居の高さに驚いているうち、部屋に警察官がふたり訪れた。

 すでに現場となったパーティー会場で話を聞いてきたらしく、ひとりの警察官が「秘書の方から伺いましたが――」と言っていたから、やはりさっきのメタルフレームの出来そうな方は成海さんの秘書というのがわかった。

 バッグが紛失した時刻や状況は、私が警察官の人に話すことになった。

 それから、肝心のバッグに入っていた中身。

 財布やスマホなど、貴重品が多く入っていたから、すぐにスマホやクレジットカードを一時使用できないように処理をすることになった。


「――では、本日の参加者リストは参考までにお預かりさせていただきます。盗難されたと思われるものが発見された際には、すぐにご連絡させていただきます」

「よろしくお願いします」


 一通りの話を終えると、ふたりの警察官は「失礼します」と部屋を出ていく。

 話し声が飛び交っていた広い部屋の中に静寂が訪れた。

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