婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


 このまま連れて帰られてしまったら、私はどうしたらいいのだろう。

 今から告げられることが怖くて仕方ない。

 真実を突き付けられて、どんな顔をしたらいいのか。どんな言葉を返せばいいのか、全く想像がつかない。

 だけどもう、逃げられないことに覚悟を決めるしかなかった。

 逃げるように出たマンションに戻ってくると、ダイニングテーブルの上にはリングケースが置いて出たまま残されていた。


「何も連絡もなしに、逃げるように石川に帰ってしまおうなんて、何か俺に言えないことがあったってことだよね?」


 やっと戻ってきた広いリビングで、貴晴さんは私を追及する。


「話して、何があったのか」


 昼間のことは何もなかったかのように触れてこなくて、頭の中は混乱でパンク寸前に陥った。


「どうして……探したりしたんですか?」


 やっと言葉を発した私を、貴晴さんは黙って見つめる。

 昼間ガラス越しに目が合った貴晴さんと目の前の貴晴さんが狂いなく重なり、心臓をぐりぐり抉られていくようだった。


「私なんか、どうして迎えにきたんですか?」

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